BOXESについて

柴野利彦

BOXES 1EXON & INTRON)意味と無意味

これらはすべて1999年に制作されている。その理由は、同年の9月から10月にかけて川越の「3番町ギャラリー」で個展を開いたためで、BOXシリーズは、その年の収穫となったものだ。

ヨーロッパの美術館には、箱の美術家として知られるジョゼフ・コーネルの作品があちらこちらで見られ、それはシュールリアリズムのニオイをプンプンと発散させているので、てっきりドイツあたりの作家だろうと長い間思っていた。これを書くにあたってインターネットで調べたら、アメリカ生まれであることが分かり、何だか肩すかしを食ったような思いだった。

とはいえ、そのジョゼフ・コーネルの箱にこめられた小宇宙は魅惑的で、いつか自分も箱の中に小さな宇宙を閉じこめてみたいと願っていた。それが実現したのがこのシリーズである。ジョゼフ・コーネルは、母親と弟の面倒をみるためにニューヨークからよそへは出ることがなかったという話である。だからこそ抱きしめられるくらいの大きさの箱の中に自分だけの宇宙を封じ込めたかったのかもしれないと思うと、その切実さが伝わってくる。

1999年の個展会場の壁に貼った説明書きがあるので、それを引用してみたい。

ボックスを使ってアッサンブレ(素材を組み立てる)する作品は、少し前から始めた新しいシリーズです。それまで、私は平面制作ばかりを長年やってきて、立体に対する憧れがどんどん強くなっていくのを抑えることができなくなりました。2次元(平面)と3次元(立体)では、軸が一つ増える以上の違いがあります。

絵を描く時の私の志向性は、点と線と円弧、それに平面構成を加えるという極めて絵画の基本に忠実なものです。最初は、それこそ自分の中に浮かんだアイデアを即座に立体にしてみるということが最も重要でした。それにはダンボールでできたボックスは、切ったり穴を空けたりという作業がいとも簡単で、性急に結果を求める自分の性格にあったものでした。このシリーズでは、人に見せるためというよりも、自分のアイデアの具現化といった要素の方が強く、作品が粗い仕上がりになっているというそしりは免れないかもしれません。

しかし、今回使用している材料の中には30年も前から溜め込んでいるものもあります。また、一つの作品を制作するのに、アイデアが固まるまでに2~3年かかることもあります。その間に菓子箱やお蕎麦を入れる木製の箱、チョコレート箱など、面白そうな箱がどんどんと増えていきました。

ボックスシリーズは、自分にとって曖昧さを整理するという意味で、これまで平面でやってきたことをかなり明確にしてくれました。現代美術はあまりにも小難しく、頭の体操になりすぎたきらいがあります。もっと観る人を大切にして、愉しんでもらいたい、喜んでもらいたい、ということを主眼として制作しましたので、どうぞ心から面白がってもらえたらと願っております。

最後に、タイトルについて少し触れておきたいと思います。ここ10年間の分子生物学、遺伝子工学の進歩は遺伝子について多くのことを明らかにしてきました。私は、10年以上にわたって、日本全国の医科大学研究室を取材する仕事をし、多くの情報に接してきました。21世紀は、まさに飛躍的に発展する遺伝子情報に基づく新しい世界観が築かれていくものと思われます。

「エキソンとイントロン」は、エキソンが遺伝子情報を担う部分で、イントロンはゴミとして切り捨てられる部分のことです。イントロンは、1999年当時はゴミ遺伝子とか呼ばれていましたけど、2010年現在では人類の進化において、かつては重要な役割を果たしたものという風に認識が改まってきています。このイントロンの役割が解明されれば、人類の発生過程がもっと明確になるかもしれません。私は、それを「意味と無意味」という風に敢えて訳してみました。本当は何が意味があり、何が意味がないかなんて、価値観が多様化している現代では、あまり意味がないように思われるのですが